研究内容について
- 日本・東洋美術史ゼミ
Ⅰ.研究テーマ
国宝《寝覚物語絵巻》で使用された色彩や技法といった図様が、登場人物の「哀しみ」に与える影響を検討する。加えて、その影響に男女差があるのかを検討する。
Ⅱ.研究対象について
①国宝《寝覚物語絵巻》について
平安時代の長編恋愛物語を絵巻物にしたもの。絵は4場面しか残されていない。
②場面の概要(研究に関わる場面のみ)
ア 第三図
登場人物
まさこ君:中の君(のちに寝覚の上と呼ばれる)と中納言(のちに大納言)との子、息子
中納言:のちに大納言と呼ばれる。中の君を但馬守の女と勘違いし、一夜の契り意を交わす。これをきっかけに、中の君に思いを寄せることとなる。
場面内容
冷泉院から勘当を受けて女三宮との仲を引き裂かれてしまった、まさこの君が、女三宮付きの女房である中納言の君の里を訪ね、己の悲痛な心情を訴えかける場面である。詞書の内容によると、この月に照らされた妖しい美しさによって、悲壮感は一層増すこととなっている。
イ 第四図
登場人物
冷泉院:帝。冷泉院女三の宮(娘)の父。縁談が決まっていた冷泉院女三の宮が、まさこ君と相思相愛になったことにたいそう立腹され、まさこ君を勘当する。寝覚の上に対しては、さまざまに言葉を尽くし寝覚の上を口説かれる。
寝覚の上:冷泉院の目覚の上への執心と、関白(寝覚の上の夫)の嫉妬との板挟みの結果、身を隠し、偽死を装う。
場面内容
山の座主を介してまさこ君への勘当が解けることを嘆願する寝覚の上の手紙が冷泉院に奉られ、寝覚の上が死去したばかりと思っていた冷泉院が、結ばれることのない相手を想って涙を流している場面である。
Ⅲ.先行研究からみる女性画の美意識
ア 画家のアマチュア性
イ 鑑賞者の感情移入のし易さ
ウ 技法にみる変形と省略
エ 女性画(女性が描く絵)の色彩
Ⅳ.研究で取り上げる問題点
①作中に男性が哀しむ場面が描かれていることの重要性
②男女別の「哀しむ」表現方法の性差について
問題点①
ア 人物表現に必要な要素
イ 鑑賞に必要な場面を取捨選択する
→女性が哀しむ場面よりも男性が哀しむ場面を選択したことには意図が?
男性が哀しむ場面を多く描いたことによって鑑賞者にどのような効果を生ませるのか(仮)
※偶然、男性が哀しむ場面が多く残っていた場合のことは今回考慮しないこととする
問題点②
※《寝覚物語絵巻》には、女性が哀しむ場面が無いため、同時期に制作されたとされ、比較対象とされることが多い《源氏物語絵巻》「御法」を比較対象とする
先行研究において「女性画は、表現要素の全般に動きが乏しい」、「女性画の人物はかわいらしく優しい表情」「女性画は色で語る」と述べられている
↓
つまり、
・表現を構成する要素は、色彩と技法である可能性がある
・「哀しむ」ときの登場人物(男女別)の表現の差の有無は述べられていない。
Ⅴ.修了研究に向けた研究の方向性
ア 各問題点の仮説の構築
イ 問題点①に関する研究
ウ 問題点②に関する研究
ア 各問題点の仮説の構築について
・知識の習得を行う Ex)制作行為言論Ⅱ(さまざまな絵画素材の特性と表現技法の可能性を把握する)の受講
イ 問題点①に関する研究について
・各場面の表現方法(登場人物の仕草・表情、風景)の分析
ウ 問題点②に関する研究について
・絵巻物における男女の表現方法に関する論文を見つける
・「哀しむ」という表現になるための条件の確立を行う
・男女別の哀しむ表現方法の性差を証明するための実験