進学を導くきっかけになった、積読の一冊
- 小説ゼミ1
- クリティカル・ライティングゼミ

【8月の本(積ん読を読む)】
昨秋、大学院のWEB説明会で、小説ゼミ1の現役生有志17人が文芸フリマで本を発行していると知った。進学に迷っていた私は「行かねば!」と会場に足を運び、先輩方のスペースで念願の本を手に入れた。読むのがもったいなくて半年も寝かせてしまったが、いざ開いてみると17編それぞれに強い個性と魅力があった。
- 物語の一番手にふさわしい柔らかな文章『ヒマラヤ杉』
- 愛が見た、戦後3代続く、誇り高きセックスワーカー『浅草公園の観音様』
- 物語の中で冒険を潜り抜けると現実の世界でも強く生きることができる『図書館強盗』
- 仲間思いが胸を打つマラソン青春記『ザ・パンティー』
- 文体から煙草の匂いがたちのぼる『Drivers must be inside』
- サブカルのガイドブックのような『『いちご白書』をもう一度、をもう一度Type B』
- 優しく、しかし仄暗さを秘めたファンタジー『くまとはちみつ、あるいはソフトクリーム』
- 不気味の中に愛着が芽生える瞬間を描く『山男』
- 歓迎されない出会い、野生に解き放たれる性、命の解放を待つ『待つ女』
- こんなに面白いのにTwitterでバズってないのは不思議な『電気陰毛少女』
- 性のいやらしさと温かなつながりを示す『へその緒』
- 恋さえも秋冷えになる『秋の記憶』
- 見知らぬ人との会話に看脚下を感じる『朝湯』
- 絵描く動作をここまで的確に描写した文に唸った『掌のなかの風』
- 50歳の主人公を思わず助けたくなる『静寂』
- 自分ごとのようにハラハラし、ボタボタと涙を流し一度、本と閉じた『靴をおろす』
- 妻がフランス語を通して女としての人生を取り戻す『わすれる』
この一冊には、先輩方の魂の声が刻まれている。その力強い声は、進学に迷っていた私の未来を紡ぎ、自分の物語を紡ぐ書き手として歩み出すきっかけをくれた。今年の秋には『つむぐ2号』が発行されるという。これもまた「行かねば!」
『つむぐ 創刊号』(京都芸術大学大学院文芸領域小説創作ゼミ1有志、2024年)