原作ファンも太鼓判 実写映画のチカラ2025年上期の珠玉の三選

  • クリティカル・ライティングゼミ

笹尾 優子

一般公開

文芸特論VI(最終課題)

原作ファンも太鼓判 実写映画のチカラ2025年上期の珠玉の三選

漫画・ミュージカル・文芸作品からの実写化には、期待以上に不安が先行する。

だが2025年上半期に公開された3本の映画は、その懸念を鮮やかに払拭し観客の心を掴んだ。

その成功の理由を改めて探る

ささやかな日常、体内ではお祭りさわぎ!?

『劇場版 はたらく細胞』(武内英樹、2024年、日本)

人気マンガの実写化と聞くと、原作からの改変やクオリティの低い演技を連想し不安を抱かせがちだが本作は違った。体内で起こる命の営みをテンポ良く描き、VFXを使って迫力あるアクションシーンを作り出すことに成功した。とりわけ後半の「がん細胞」の誕生と暗躍を描いた終末感あふれる演出はハリウッド級の大迫力。身体の持ち主である少女の日常パートと体内の事件パートを巧みにクロスさせて描き、観る者を飽きさせない構成に仕上げている。終盤にかけての医療ドラマとしての脚本の緻密さにも驚かされ娯楽性とリアリティが見事に融合した漫画の実写化映画の成功の好例になるだろう。

●邪悪な魔女の親友だった、嘘つきな私の話

『ウィキッド ふたりの魔女』(ジョン・M・チュウ、2024年、アメリカ)

「オズの魔法使い」の”西の悪い魔女(ウィキッド)”は、なぜ誕生したか?その問いを主題にした、大人気ミュージカルを待望の実写映画化。原作は湾岸戦争下のアメリカ社会において「表の正義と裏の正義」、「正義とは何か?」を問いかけた社会派作品であり、映画化においてもそのテーマは継承された。性差、障害、民族など様々なマイノリティの起用することにより、多様性への配慮し、舞台セットのリサイクルなどSDGsにも注力し現代的な視点を取り入れた。原作の精神を受け継ぎながら映像として新しい命を吹き込んだ。見どころは、対立するふたりの魔女が“ひとつの嘘”をきっかけに互いの弱さに気づき、和解する場面。映画ではより魅力的な演出で再構築され、忘れられない青春のワンシーンへ昇華された。後編は20263月公開予定

●孤独な少年の孤高の天才への軌跡

『国宝』(李相日、2025年、日本)

原作者、吉田修一が3年かけて歌舞伎界に潜入取材し描いた小説の実写映画化。天涯孤独の少年・喜久雄が歌舞伎の世界に身を投じ、出逢いや挫折を経て、やがて人間国宝と称される孤高の存在へと昇りつめていく。部屋子として入った喜久雄だけが過酷な折檻や嫌がらせがあるのではと不安だったが、もう一人の主人公である跡取り息子・俊介と共に切磋琢磨し逆境に立ち向かいながら成長していく。芸が上達し高みに昇り進めるほどに、大切な人がひとり、またひとりと消えていく孤独の連続。国宝とは、孤高であること。伝統ある血縁に守られたいと願った少年が、血の繋がりがないからこそ守られたという皮肉。そして唯一の血縁から放たれる一矢と静かな救いが訪れるラストシーンまで目が離せない

小説版では、喜久雄と俊介それぞれの視点から上下巻の長編な物語が描かれる。映画版では、それを三時間半に凝縮した。主演二人は二年間の稽古を重ね、演目の数々に挑んだ。覚悟の決まった姿は、歌舞伎役者としてなのか、それとも俳優自身のものなのか。演技の凄みは観客の息を呑ませるほど荘厳だ。

笹尾 優子 ササオ ユウコ

所属:芸術専攻 文芸領域

日本画家です
2025年 文芸領域入学(クリティカル・ライティングゼミ3期生)