『スターニャン ほしねこ くろの おはなし』─生還の花輪と転生の星輪─

  • クリティカル・ライティングゼミ

笹尾 優子

一般公開

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12月の本を紹介する課題『大人に薦める絵本』

─生還の花輪と転生の星輪─

我が家には今年で12歳になる、ホーランドロップのうさぎがいる。名前は別にあるが、私にとって弟のようなものなので弟兎(おとうと)と呼んでいる。表情の変化は乏しいがその分、瞳や動きで一生懸命に感情表現をしてくれる。おっとりとしていて甘えん坊で、食べることが大好きな弟兎。毛並みもよく、足腰もしっかりしていて言われなければ、高齢のおじいさんうさぎだと分からない。しかし、人間の年齢に例えるなら88歳。若い時は全く病気知らずだったが、うさぎの平均寿命である8歳を過ぎたあたりから年に何回か入院することが多くなった。入院の度に「今日が峠になると思います」と主治医から宣告され、家族で泣きながら彼の奇跡的な回復を祈ることしかできなかった。ある手術を受けて、奇跡的な回復をして退院する際にエリザベスカラーを巻いて帰ってきた。回復するにつれてプラスチック素材から、柔らかいフェルト製の黄色い花のものに交換してあげると、痛々しかった姿が一瞬で、ボン・デ・ライオンにそっくり……!あまりの可愛さに写真を撮っていると、弟兎は「ぼくはこんなに大変だったのに、おねえちゃんたちは、まったく……」っと、少し呆れた瞳をしていた。弟兎を可愛い姿にしてくれた黄色い花のエリザベスカラーは、生還のシンボルだった。

先日の文学フリマで、この絵本を『スターニャン ほしねこ くろの おはなし』をみたとき、弟兎のお揃いのエリザベスカラーに強く惹かれ、これはきっと手術をした黒猫の大冒険の絵本に間違いない、と直感した。しかし包帯でグルグル巻きの大手術をしたにもかかわらず、部屋を飛び出すスターニャン、流れ星を追って夜空へ駆け出す展開に、ハッとした。冒頭では花のエリザベスカラーだったのに途中で、星の形に変わっている。まさか、と思い「これは、彼が『星』になった、ということですか?」と店頭に立っていた作者の方に訊ねると「昔よくうちに来ていた子です。いい子でした」と回答を受け、胸が痛くなった。

私にとって、エリザベスカラーは生還のシンボルだったが、本来は生死を彷徨い、回復途上にあるもののシンボルだ。この物語にはスターニャンの直接的な死は書かれていない。しかし満身創痍から一転、夜空を自由に駆け回ることで、第二の生(一度目の死からの再生)を表現されている。哲学書を多く手掛ける出版社と作家の、生と死に対する深い優しさ。スターニャンは、これからは、星のかたちでその生を駆け抜けていく。

『スターニャン ほしねこ くろの おはなし』(友杉宣大、ゲンロン、2025年)

笹尾 優子 ササオ ユウコ

所属:芸術専攻 文芸領域

日本画家です
2025年 文芸領域入学(クリティカル・ライティングゼミ3期生)