『道徳という名の少年』/道徳的に生き、不道徳に酔う
- クリティカル・ライティングゼミ

1月のテーマ:ベスト・オブ・ベスト
自分が選ぶ最高の小説をおすすめする課題
道徳的に生き、不道徳に酔う
新しい年を迎える年の瀬、私は、ある暗い物語を読んで、ひどく癒されていた。それは胸をすっとすくような奇妙な安堵だった。この不思議な感情について、ゆめうつつながら焦点を合わせる。非道徳的な描写が現実ではなく物語という境界の中で完結している、傍観者意識からくる安心感だろうか。あるいは、人が普段は口に出せないほの暗い秘密の願望や、涼しげな表情の下に隠し持つマグマのような激情を覗き見ることに背徳的な悦びに浸っているのかもしれない。どちらにしても、褒められたものではない。しかし、肺が凍りそうな冬の夜にぴったりな自分の根暗さ、に寄り添うには、これ以上ない時間だった。
私が選ぶ「ベスト・オブ・ベスト」は桜庭一樹の『道徳という名の少年』。私の部屋の、厳選されたものだけが蔵書になれる本棚で10年近く眠っていた一冊である。私の記憶では、それは重厚なハードカバーで上質な手触りの紙で重みのある書籍だった。しかし久々に手に取ると、わずか75ページの、うっすい文庫本だった。好きなあまり、無意識に美化してその存在を大きく膨らませていたらしい。
だが、中身の密度は桜庭一樹の関連作品の旨味がギュッと濃縮されている。収録された5編の掌編は、『本当は恐ろしいグリム童話』を彷彿させるような、エログロで不道徳な展開が続く。(なんと、うさぎが死ぬ。ひどい!)それなのに、語り口はどこまでも洗練されており、読了の舌触りが良い。特筆すべきは、作中で唯一の善性である主人公が儚く散るシーン。リリカルで疾走感あふれる描写は、黒い夜空から大切な星が一つ消えてゆくような寂しさを連れてくる。その暗さに、私はただうっとりと酔いしれる。
『道徳という名の少年』(桜庭一樹、角川⽂庫、2013 年)
