万博の天国から見た夕日と未来

  • クリティカル・ライティングゼミ

笹尾 優子

一般公開

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先月のゼミの翌日、新幹線に飛び乗り、妹と大阪・関西万博に向かった。 私も妹も海外経験こそ少ないけれど、異国の小噺や世界史が好きだ。なにより我ら姉妹は、 “楽しい祭り"が大好きな江戸っ子気質。祭りは乗らなきゃ損損。

万博の会場は、想像の5倍は広く、人の多さは新宿駅の雑踏並み。パビリオンはどれも神殿のように崇高な建築デザインで圧倒された。私たちは、まるでちっぽけな蟻のようだった。右も左も分からない蟻の私たちの冒険が始まった。

海外の展示は、憧れのチェコ館は大人気で断念したけど、チェコ館が考案したミャクミャクの友達のレネの人形は購入出来た嬉しさに、思わず踊った。ハンガリー館では星降るような光の中で、夜空の女神のような女性がハンガリーの民謡を歌ってくれた。あまりの美しさと、得体の知れない恐ろしさに、気づけば涙がこぼれていた。必死の思いで応募して当選したイタリア館では、美術界の巨匠たちの作品に、息を呑んだ。 日本の展示では、小山薫堂氏が監修したのパビリオンには、本学の通学部1年生が制作したねぷたも飾られていた。思わず得意げな顔をしてしまった。身内の作品を見つけた時の、あの誇らしさは独特だ。入場特典で、この万博で漬けた梅干しを25年後に食べられるイベントに参加できることになった。25年後の私たちへ贈る、ささやかなタイムカプセルだ。

普段目にしない貴重な情報と感動の連続で、楽しいストレスで夕方にはヘトヘトだった。疲れた私たちは、癒しを求めて「大屋根リング」へ登ってみることにした。そこから見える夕日は、必見だという。

長いエスカレーターの先には、花々が咲く草原が果てしなく広がっていた。テラスから下を覗くと、今朝、神殿のように感じた建物は、ミニチュアのように見えた。神殿の見下ろしながら歩く私たちは、天界の住人かのようだった。厳かな気持ちで大屋根リングの山頂を目指す。

5月の夕暮れはまだ肌寒く、冷たい海風が顔を撫でる。花々が揺れる草原の向こうから海が広がり「あ、雲から夕陽が……」 と妹が呟いた。その風景は、この世のものとは思えないほど美しかった。日没の時間、山頂には多くの人々が集まり、それぞれが人生の転機になるような美しさを胸に刻んでいるようだった。

傍らの妹を見て、私はふと思った。30年以上一緒に暮らす妹。たくさんケンカして、たくさん遊んできた私のかけがいのない、親友のような妹。一体これから先に、どれくらい一緒に過ごせるのだろうか。25年後、梅干しを貰うときに妹は、私たちの家族は元気にしているだろうか。嗚呼、どうか神様、未来の家族が幸せでありますように、と。こんなにも切実に未来の幸せを祈ったことはなかった。きっとここでの祈りは、私の走馬灯のワンシーンに入るだろう。あの夕日には、そんな祈りの色が宿っていた。

たった一日過ごしただけなのに、大阪・関西万博は私のこれからの人生の指針になるような、大事な場所になった。けれど、私たちはまだまだ、万博を楽しみたい。 今月のゼミの翌日、また新幹線に飛び乗ることにした。 あの夕日を越えるような冒険が、また待っているかもしれない。

笹尾 優子 ササオ ユウコ

所属:芸術専攻 文芸領域

日本画家です
2025年 文芸領域入学(クリティカル・ライティングゼミ3期生)