11月実践課題(ビジュアルを紹介する)
- クリティカル・ライティングゼミ
日本画『甘い星の獣』
『女性は、生まれる前に光る』。これは、受精卵が誕生した際に、卵子の表面にカルシウムの波が立ち、顕微鏡のもとで光り輝いてみえる現象のことのだ。「女性は生まれながらに輝いていることを忘れないでね」という言葉とその映像を目にした体験は、この作家人生に計り知れない影響を与えた。
女性の心とは、年齢を重ねても大人の女性と少女の間でグラデーションのように揺らめいている。キラキラしたものにときめいたり、少し変わったものを愛おしく思ったり、見たこともない新しいものを尊ぶ、そんな遊び心のような輝く才能を誰も内に宿している。作者は、この生まれながらに輝く女性が住む世界を『甘い星』と呼ぶ。そして絵画とは、現実からその夢見心地な心の星に通じる窓辺である。今宵は、この窓辺についての話をさせてほしい。
この絵画の主人公は、甘い星に住むまだ幼い一角獣。麻の葉模様の彩雲を見上げながら静かに佇んでいる。雪のように白い馬体、鮮やかな朝焼けから夜空の色へと流れるタテガミ、天にまっすぐに伸びる白銀の角。その姿は、若い希望そのものだ。
背景を彩るのは、彩雲。雲に虹が差し、淡く色づいて見える自然現象。古来より吉兆のしるしとされ、「見た人には幸運が訪れる」と言い伝えられてきた。この作品は、そんな夢見心地の世界を一枚にぎゅっと閉じ込めたものである。
素材について触れておくと、日本画の絵具は金銀、宝石、鉱物の粉末、そして花の染料が用いられている。一角獣の瞳には、雲母(うんも)と言われる薄い石を一枚ずつ貼り重ね、光の角度によって輝く仕掛けがある。背景に用いた麻の葉の模様の和紙は、落水紙(らくすいし)。紙漉きの工程で霧状の水を落とし、凹凸の模様をつけたものである。麻の葉模様は、正六角形をした幾何学模様で、一見すると葉というよりも、一面に花が咲いたような可憐さを持っている。
こうして描かれた、若い希望の心を持つ一角獣の姿は、作者自身の祈りである。この作品を通して感じた甘い星の光。どうか、あなたの中の光を、どうか忘れないでいてほしい。