日記7 11月8日 土

  • 小説ゼミ1

登内 恵

一般公開

11月8日 土

今日は寺へ行った。

映画の上映会があったようで、その手伝いをした。

「100年ごはん」というそうだ。

午前は30人、午後は25人来た。

いつもは料理教室に使う漆の器を

配膳のために、お盆に載せていると

坐禅を組んだ禅僧にでもなったかのようだ。

…というかいつのまにか椀を置くたびに

自分のまわりが薄い蚊帳でも吊るしたように遮られ、

音が遠くへいくような感覚になっていった。

お椀を大きいものから小さなものまで並べていくうちに

周囲の音は少しずつ小さくなって、最後は消えていきそうになるぐらい遠くへ去っていく。

禅寺なので音を立てちゃダメなのだ。

ちょっとした修行かもしれない。

料理の材料は大分の臼杵市から届いたものを使った。

その時は作った農家や、映画の監督も来ていた。

監督は大林宣彦の娘さんで料理家でもある。

食べる事も活動にあるということは、とても丈夫なお腹をしてるのだろうか?

本当に好きでないと続けていけないとおもった。

上映は大テーブルの上に三脚付きのスクリーンを立て、

中テーブルに、けんちん汁、しょうがご飯、ニンジンを使った豆腐、ほうじ茶、最中をだした。

(そのうち、汁もの、ご飯、お茶は大分のものだ。)

少し多めに作ったであろう余ったそのけんちん汁は、とても味が濃く、甘みと、ほのかな苦みと土の気配を感じた。

強い歯ごたえと一緒になると、うま味が口いっぱいに広がる。

私は香川県で住んでいた事があるのだが、どっちかというと田舎の野菜からは森や野の味がした、

久々にそれを感じて懐かしくなった。

そういえば農家さんの話しによれば、ダイコンやカブは-4度か-5度で痛み始めるそうだ。

だとしたら冷蔵庫はどうなんだろう?と、ふとおもったのだが、無骨な見た目に反して繊細な温度調節ができるというから、

こういったものを発明できるひとは天才なのかもしれない。

その後は、上映会が4時半に終わり、5時半まで食器の片づけと吹き寄せ用の野菜の型抜きをして

ネコに見送られながら家路についた。

明日は雨が降る。

帰りに駅でティラミスとフランを2個ずつとコンビニでビールを2缶買った。

夕飯はソース焼きソバであった。

世俗はあいかわらずハイカロリーである。

そのギャップは幸せだとおもう。

その差を味わうのは楽しい。

それから、あのけんちん汁のように、やっぱり「残り物には福がある。」のかもしれない。

そんな日だった。

登内 恵 トノウチ メグミ

所属:芸術専攻 文芸領域

2025年 文芸領域 小説ゼミ1〈M1〉
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