日記12

  • 小説ゼミ1

登内 恵

一般公開

・5月12日 火

散歩をしたくなったので、なんとなく高円寺にむかった。

電車に乗り、6駅目の高円寺で降りて「旅する喫茶」でアールグレイジュレとモモのコンポート入りのカッサータとレモネードに、タケノコとナスのグリーンカレー(ご飯大盛り。)をいただく。ここにはたまに立ち寄ることがある。

店内は柱、壁といった部材、家具含めて木で統一されていて趣きがある、

アンティーク調の少し味のある色味をしているからか、新しい店でありながら

不思議と落ち着く空間である。

ここは年中無休だ。

休みはいつなのか?なかなかな体力。けど、心配。

店内のスピーカーから、クラシックなピアノ演奏が優雅に流れているなかで

カウンター越しにあくせくとせわしなくキッチンで調理する店員と店長の姿が目にはいる。昔はクラシックを聴くひとは、貴族とかいった働かなくていい人達が多かったそうだ。そういうものが聴こえるなかで、私はお客としてキッチンのせわしない様子をながめがら注文したものが来るまで待つ。

(言い方は悪いけど、クラシックはレストランとかホテルといった人を使える贅沢な空間には相応しい曲なんだろうな。とおもった。擬似貴族だ。)

私が座っているのはカウンター席だ。4席ある。私は右から2席目だ。

いつのまにか左奥の4席目で、急いで昼食のグリーンカレーを行儀よく食べている店長のお兄さんの姿があった。

30分して、私のグリーンカレーが来た。

お子様ランチ的な白ライスの山のまわりにグリーンカレーが回しかけられている見た目が食欲をそそられる。大きく切られたタケノコとナスがジューシーで、

カレーのルーはキーマカレー風のグリーンカレーといった感じだった。

ショウガ、ホーリーバジル、ココナッツミルクの爽やかな風味の中に

なぜか梅干し的な風味も感じられ、不思議と後引くおいしさで、

まさに「旨味」という感じ。

大盛りなだけに山を崩しながら食べ進めていくと雪崩でも起こしているよう。

登山してるみたいだ。

スプーンで登る。

ニンジンとダイコンの酢漬けが口の中をさっぱりさせてくれる。

これが夏限定なのが残念だ。

食べ進めていると今度はレモネードとカッサータがやってきた。

レモネードは紫陽花みたいな薄紫色だ。

夕暮れにもみえる。

ストローで混ぜると鮮やかなピンク色に変わった。

香川にいた頃にみた夏の夕暮れを思い起こさせる。

フレッシュなレモンのすっぱさに蜂蜜の甘さがあって、炭酸と割られているからか、

とても飲みやすく、量がありながら、あっさりとして飲みやすかった。

さて、問題はカッサータだった。

何が問題かというとコレはけっこう硬かったのだ!

「少しずつ溶かしながら食べて下さい。」といわれてはいたから、

わかってはいたけど予想外に溶けにくく、なかなかスプーンがとおらず、

とおればとおるで食べるたびにメッキの銀皿に当たって音が響くので

少し、恥ずかしくなった。みるみるうちにモモのコンポートを囲んでいた綺麗なヨーグルトアイスの円環は、海の波に削られたテトラポッドの様に崩れていったのだった。

味はというとおいしい。んだけど複雑な味なのでどうたとえればいいかよくわからない。

アールグレイジュレの微かにベルガモットの風味を感じさせる苦みとモモの甘味に、

ヨーグルトアイスの乳脂肪を感じさせるミルキーな甘酸っぱさとひとつになって、

これはこれで満足感のある一皿だった。

食べるだけでピリ辛のグリーンカレーで鼻詰まりになり、

カッサータで知覚過敏を起こし、ヒイヒイいいながら好物だからと食べる自分は

さぞヘンテコにみえたかもしれない。

体が弱いわけではないのにやたらと外の刺激に敏感になりがちなのがたまにキズ。

帰ろうと席を外すと、あちこちから他の客が控えめに注文を申し出る声がした。

びっくりするぐらい小声だった。

出入り口の階段を見下ろす。そのまま降りて扉を閉めるとテレクラの様な怪しい店や、

ラーメン屋、タイ料理の居酒屋、雀荘、ゲームショップに囲まれた外に出た。

最寄りの駅はJRだ。

高架下には「高円寺マシタ」という割と小規模な飲食店が立ち並んでいる。

ここにはまだ行ったことはない。

ケンタッキー、ビストロ、山形料理の店、うどん屋、タリーズ、なんでもある。

「伊吹うどん」は讃岐うどんの事なんだけど、香川という本場にいた自分としては

味くらべしたらどうなるんだろうか?とは気になっている。

けど、まだ行ったことはない。

店内の隅に積まれた伊吹いりこのダンボールが丸見えだった。

これ、かたづけるの大変そうだ。

しかも山積みで崩れそうだし!

そういえばこの高円寺は駅から離れると、人気がない荒れた場所が目につく。

そこには誰がはいるんだろう?という感じの看板がない、寂れた居酒屋がポツ、ポツ、とあるだけで、あとはほとんどがシャッターを降ろしていた。

なかには出入り口がはずれて、全体が傾きかけた今にも崩壊しそうなガタボロの店もあって、そこは韓国料理の店だった。

多分、閉店してんのかもしれない。

明かりはついていて、男がひとりなにかしているのがみえた。

店が立ち並ぶ通路の壁という壁には、意味不明な落書きと、ごちゃ混ぜになって、

お客とおぼしき人が残していったステッカーが乱雑にビッシリ貼られていた。

あたりにはゴミが散乱していた。

夜はきっと、騒がしいんだろうね。

賑やかとはちょっと違うかも。

…治安の想像がつかないけど、やばそうな雰囲気はした。

こういったものをどう言えばいいかわからないけど、怪しくみられたり、嫌がられるものは離れた場所で、同じ人同士でなにかしているものなんだろうかとおもった。

日が当たる場所と、当たらない場所は意外と近くにあるんだろうな。

駅に戻ると、広告が目にはいった。

なに?漢方専門・せんじ薬・まむし粉末 司生堂漢方薬店?

私はなぜかこういうものにおもしろそうと、目がいってしまう癖がある。

それにしても今でもマムシを薬にするひとがいるのが驚き。

私だったら震えあがってしまう!

目的は?

想像がつかなかった。

夕食は玄米と白米を混ぜたものに長ネギと厚揚げの赤味噌、マグロの刺身、

切干しダイコンの煮物だった。

「ハレ」は非日常。「ケ」は日常。

ということは考えてみれば、家の外に出れば「ハレ」で、

中は「ケ」なのかもしれない。

それならいつも本当に晴れてほしい…。

なにか用事がある日はきまって雨に降られてしまう。

父は「晴れ男」で、母は「雨女」である。

お天気もそうだけど、もう少し自分が楽しめることが増えればいいけど、

これが意外と難しい。

そんな日だった。()

登内 恵 トノウチ メグミ

所属:芸術専攻 文芸領域

2025年 文芸領域 小説ゼミ1〈M1〉
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