「スランプ」という舟に老人と乗って漁に出てみた

  • クリティカル・ライティングゼミ

笹尾 優子

一般公開

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3月の本を紹介する課題「自由」

「スランプ」という舟に老人と乗って漁に出てみた

M1最後の課題は、早々と詰んだ。

この禁じ手を年度末にまた使うとは思わなかった。

あれだけ書く勉強をしてきたのに、書けないときは何をしても出ないものである。

普段、読まない本のジャンルに挑戦した。ヘミングウェイの傑作『老人と海』である。

キューバに住む年老いた漁師が84日間も不漁。

老人を慕う少年だけが彼を励まし、実力と成功を信じ尽くしてくれる。

しかし不思議と老人は少年からの熱いエールをのらりくらりと交わす。

老人の体や勘だけではなく、心もまた老いているのだ。およそ3か月も無休かつ無給。

私も無職で就活に苦しんだ時期や不払いが何度もあった。

「この世に見放されて誰にも期待されてない。

だから自分もすべてに期待しない。」と、情けない無力感。他人事ではなかった。

やっとの思いで少年に見送られながら沖に出る老人。

漁の大きな手応えがなかなか無いことに、老人以上に私が焦る。

頼む、何か大物を釣ってくれ。私も何かしら書かないといけないんだ。

釣りのポイントを少し変えてみるといいんじゃないかな?

気づけば私も、老人と同じ舟に乗って沖に漁に出ていた。

船上で老人と共に過ごし、一緒にマグロを海水につけて食べ

「たしかにこれはライムを絞った方が美味しいよね」

「カツオノエボシの凶暴な毒性を娼婦と称するセンスがいいね。

日本では江の島の海にもいるんだよ」と一方的に会話をした。

一方で老人は一緒の舟に乗らなかったやさしい少年をこいしく思う。

「あの子がいてくれたらなあ」

私がいるだろ。今夜は早めに休んで明日がんばろうぜ。

そして夕暮れ、ついに大物のカジキが食いつく。

きた。老人、負けるな。このままひとおもいに釣り上げろ。

しかし相手もなかなかの大物で、簡単には勝たせてくれない。

老人も私も熱が入る。不眠不休でも負けられない戦いがある。

冒頭の情けない無力感はどこへやら。綱を支える左手が痙攣しようが、決して諦めはしない。

老人サンチャゴよ、

お前が本当はライオンのような精神がある男だって証明してみせろ。

死闘の末の勝利、しかし忍び寄る黒い影……。勝利が無残にも食いつぶされていく。

ああ、なんてことだ。これは人生の1つの縮図だ。

死ぬほど努力して勝ち取った成果をかすめ取られる。しかし絶対に徒労や無意味ではない。

ライオンの精神がある限り、人は何度でも海に出られるのだ。

沖に戻った老人を少年と私は共に泣きながら手厚く看病をする。

今はゆっくり休んでほしい。眠れる獅子よ、健やかに。

サムネは、生成AIに作ってもらいました。私も密航中
サムネは、生成AIに作ってもらいました。私も密航中

笹尾 優子 ササオ ユウコ

所属:芸術専攻 文芸領域

書く方が多い、日本画家
隣は学長

2025年 文芸領域 クリティカル・ライティングゼミ 3期生
2026年 卒制は闘病記を執筆、ダブルスクールで鼻血出そう