美しさの呪いを解ける場所へ
- クリティカル・ライティングゼミ

7月の本(M2)(課題:イケメン、イケ女が登場する本)
「美しさの呪いを解ける場所へ」
「君がそんなに、美しく、生まれてしまったのはね、
母親がいんらんだったからだ。」
という強烈な言葉は、決して中傷ではない。
これは密かに思い合う二人が、
ある恐怖を超自然的な因果へとすり替えることで、
互いを運命から救い出そうとする、切実な祈りである。
父親が誰かも分からぬまま
異形の美しさで生まれてしまった少女、川村 七竈(ななかまど)。
彼女の心の支えは、
無機質な鉄道模型と彼女と同じく異形の美しさを持つ少年 雪風(ゆきかぜ)。
閉鎖的な旭川の田舎では二人の美貌は、
好奇と悪意の視線にさらされることで呪いのように感じられた。
また放蕩癖のある七竈の母親「優奈」の存在も相まって、
二人は常に逃れられない悪意のなかにいた。
人生の転換期である受験期に、七竈は「可愛そうな七人の大人」と出会う。
彼らは皆それぞれが執着、欺瞞、後悔から、偏愛に苦しんでいた。
どうしようもない大人の醜い姿を目の当たりにしながら、
年を重ねるごとに同じ「かんばせ」に成長していく七竈と雪風は、自分の人生を生きるためにある選択をする。
人は美しさに憧れ、それを渇望するけれど、
その異質さゆえに当事者は深い孤独を抱える。
また対照的に、母親である優奈は自身の顔を「白っぽい丸でしかない」と感じており
平凡からの恐怖から逃れるために、奔放な「旅」を繰り返す。
美しすぎる呪いと何者でもない空虚の恐怖に揺れる母娘。
お互いのコンプレックスが足枷となり二人の人生を苦しめるが、
七竈は「おかあさん、男の人なんて追いかけないで
私と一緒にいてください。愛して私を」と母親の愛を健気に渇望していた。
主人公の名前の由来となった「ナナカマド」という植物は、
窯で七回焼いても焼ききれず上質な炭になるという。
またその赤い実も、雪が降り積もっても決して誰にも食べられないほど固い孤高の実。
どれほど過酷な炎に焼かれても、決して燃え尽きないその特性は彼女の生き方そのものを象徴している。
若さや美貌というレッテルだけではなく、
他人に決めつけられる生き方から離れ、
七竈はようやく「誰かの娘」ではなく、
1人の人間として生きられる場所へと旅立っていく。
